第27章 渦の中心へ(前編)

 宇宙世紀も0088年1月31日・・・2月を目前に控え、地球圏史上最大の騒乱はクライマックスへと突き進んで行った。ティターンズと手を結んだアクシズのその姿勢は地球圏統一への野望を隠すことなく、エウーゴとティターンズの共倒れを狙っていた。ティターンズがグリプスを改造して建造したコロニーレーザーを巡って、最後の決戦とも言うべき戦いが繰り広げられようとしていた。コロニーレーザーのような大量破壊兵器の威力は、先日ティターンズがサイド2のコロニー1つを壊滅させたことで、証明された。その大きさ故に、奪取と防衛という両者の気概と緊張は高まる一方だった。

 アクシズの居住区に当たるモウサ・・・アクシズの中枢機能の全ては、ここにある。モウサはアクシズの上部に係留されている球体状のブロックであり、アクシズの象徴と言われる建造物である。ゼダンの門に激突したときも、このモウサだけは切り離されていたから無事であった。終戦直後に1万人ものジオン残党を載せて地球圏を離脱してから7年もの間、その全ての人員の生活を支えることが出来たのは、モウサがあるからであった。そのモウサをむざむざ失わせるような事は、元々裕福ではないアクシズ軍にとっては出来ないことである。今現在でも、モウサはアクシズから切り離されていた。それはこのアクシズが現在、グラナダへの落下コースを取っているからであった。世で言う「グリプス戦役」における勝敗の帰趨は既にエウーゴのモノとなっており、ここでエウーゴを潰せば、自ずとアクシズ軍が地球圏を掌握できる事になる。その為のグラナダ潰しである。
 そのアクシズは、現段階で戦力のほとんどを温存していた。ティターンズが壊滅するのは時間の問題であり、それが近い将来現実のものとなることは、誰もが確信していることである。エウーゴの勝利は最早確定しているが、そのエウーゴにとって1年もの戦いの傷が致命的なものになろう事も、安易に予想できる。そのエウーゴにとどめを刺し、連邦を恫喝するための戦力温存であった。
 アクシズがグラナダへの落下軌道を取り始めたのがおよそ2週間前、2月上旬にはグラナダに落着する予定である。ロフト・クローネはアクシズ軍の総指揮を執っているハマーン・カーンの命を受け、アクシズと共に月に向かっていた。無論これから落下するアクシズ内部に留まっているわけではなく、エンドラ級新造巡洋艦であるシンドラの艦橋に、クローネの姿はあった。アクシズを護送している役目に就いているのはシンドラの他にムサイ級巡洋艦シシリエンヌがあったが、シンドラだけは2月に入った時点でアクシズから離脱し、シシリエンヌも最終軌道調整が終わり次第アクシズから離脱する予定である。アクシズの重要度を考えれば、その護送部隊の規模は小さすぎるくらいであると思えたが、コロニーレーザーの攻防が精一杯でエウーゴ、ティターンズ両軍には戦力をアクシズに向ける余裕がないと、ハマーンは確信に近い言い方で言ったものであった。
 ロフト・クローネは26歳、実際の年齢よりやや幼い印象を与える顔つきで、赤みがかった金髪が特徴である。一年戦争時においては、ニュータイプ研究を主旨とするフラナガン機関でニュータイプ戦士としての育成を受けたが、終戦間際になって急遽実戦に投入されて初陣を飾った。クローネには研究者達の気を引くほどのニュータイプ能力は見受けられなかったが、パイロットとしての適性の高さが今のクローネの地位を築いていた。ハマーンの目算通り、アクシズがグラナダへの落下軌道を取り始めてからも、エウーゴの妨害を受けることはなかった。シンドラのブリッジは静寂そのものであったが、それは実戦経験のないクルー達が緊張していた故の静寂ではない。長旅と退屈さで疲れた旅行客という表現が適当だと、クローネは思った。
「月まであと6日といった所か・・・周辺に敵影はないな?」
「はい、まったくありません。」
 クローネ自身何度目になるのかを忘れてしまった、オペレータとのやりとりである。クローネの口調が疲れた雰囲気を持っていたのは、他のクルーと同じ理由からではない。グラナダにアクシズを落とすことに抵抗を禁じ得なかったからである。もしこの作戦の成功が完全なものであれば何も問題はないが、不完全なものであれば月の軌道は歪み、ラグランジュ・ポイントに狂いが生じる可能性があった。そうなってしまったら、宇宙に無数に浮かんでいるコロニーの全てに影響が及んでしまうことになる。コロニーは、月と地球の重力が張っている細い一本の糸のように微妙なバランスの上に立っている。それが少しずれただけでも、コロニーは維持できなくなる。宇宙移民者の生活を考えているなら、そんなリスクを負うことをできるはずがない。
 ロフト・クローネという男はショール・ハーバインやエネス・リィプスと同じく、人間としての尊厳を大切にしたいと思う人物なのである。そして、かつてのザビ家やハマーンのように地球人類の粛正などを考えず、より人類が高く昇っていけるのではないかと思っている点でも、ショール達と同じであった。つまり、クローネはアクシズの中では危険分子の要素を持っているのでる。結局アクシズの上層部は、自分のことしか考えていないのだと、クローネは半ば確信していた。本音では、この作戦をエウーゴに阻止して欲しかった。アクシズ落としが完全に成功してグラナダだけをうまく潰すか、それとも被害もなく失敗に終わるか、そのどちらかになるように祈っていた。それなのにエウーゴはなんのリアクションも見せなかった事は、クローネを少し失望させていた。

 日付が2月1日に変わった。アクシズとシンドラは順調にグラナダへの進路を進み、クローネは日付が変わった時点でアクシズの護送部隊からの離脱を通達した。クローネには2つ、任務があった。グラナダ侵攻後にフォン・ブラウンのアナハイム・エレクトロニクスに接触して、密かに譲渡されるMSを受領する事と、月に潜伏していたジオン残党兵と合流する事である。アクシズの途中までの護送などは、そのついででしかない。合流するであろう将兵の中に、現在エウーゴに所属している人間は少なくない。ジオン軍残党兵の主な潜伏先の一つが、地球連邦軍だったからである。反地球連邦組織となれば尚更、潜伏先として格好の場所であることに間違いはない。ジオン軍残党勢力の中で最大規模の戦力を持つアクシズが地球圏に帰還したとなれば、ジオン軍に復帰する形でアクシズと合流する人員が少なかろうはずがない事は、クローネは想像に難くなかった。
 エウーゴの全艦隊が出動しているので、月に残っている人員の実戦部隊の構成員としてのメンバーとは、今回合流できない。クローネが合流するのは、地球圏の情報を持っている人員がメインであった。このようなメンバーと合流をまず済ませておかないと、地球圏掌握の土台が生まれないからだ。宇宙移民者達の意識を把握した上で、地球侵攻のための橋頭堡としてコロニー群を掌握する事は不可欠であった。人心を得ているエウーゴを潰さねばならない理由は、そこにもあった。エウーゴとアクシズが長い期間宇宙で勢力争いをすることが得策でないことは、無論クローネの承知するところである。
 その一方で、もうひとつの任務であるアナハイムとの接触に、クローネはきな臭さを感じた。アナハイムと言えばエウーゴ最大のスポンサーである。そのエウーゴは現在アクシズ軍と交戦状態にあり、単純に考えればそのアナハイムがアクシズ軍にMSを譲渡する事には、矛盾があった。しかし、アナハイムが後のことを考えているのだとしたら、その矛盾は解消された。エウーゴを支援した上でアクシズにも戦力を提供しておけば、エウーゴとアクシズ、勝敗がどちらに転んでもアナハイムは安泰であり得るのである。したたかではあるものの、クローネはそう言うあざとい策謀や政略というものが好きではなかった。アナハイムだけではなく、ハマーンという女性にも不信感を抱いていた。アクシズと言っても一枚岩ではなく、旧ジオンの派閥関係をも一年戦争時代からそのまま持ち込んでいってしまっていた。それらをまとめるためには、確かにミネバ・ザビという象徴が必要だった。ザビ家の欺瞞に気付かない連中を哀れに思ったが、自身はそんな事のための命を賭けるつもりはない。ハマーンが地球圏を掌握した後に、じっくりと時間をかけて体制を変革していけばよい・・・と、思っていた。
 シシリエンヌに後を任せてアクシズから離脱した後、クローネは考え事をしていた。アクシズ落着まであと5日を切っている。巡洋艦の巡航速度はアクシズよりもずっと速い。予定では明日にもフォン・ブラウンに接触できる計算であり、アクシズのグラナダ落着までの間に2つの任務を遂行せねばならない。自室に戻ってその計画の最終的な確認をした後、受領される予定であるMSのリストなどに目を通していた。こんなリストが存在していること自体、アナハイムが今よりかなり前からアクシズと接触があったことを裏付けている。受領されるMSは4機、シンドラに配備されているMS4機を含めると、シンドラのMSデッキは丁度満杯になる数であった。
「RMS-099Bシュツルムディアス、か。なるほど・・・こりゃハマーンが取り引きしたくなるわけだ。生産力に関してはアクシズと比較にはならんな。」
 表面的にしろ、アナハイムが直接的な敵とならずに済むことの有り難さが、このMSのスペックを見てよく判ったような気がした。このMSの性能はアクシズで開発・製造された量産型MSと比較しても、高水準であった。クローネはよほどこのMSが気に入ったらしく、図面に魅入っていた。

 日付は1月31日に遡って、グラナダの宇宙港・・・このグラナダにも当然、アクシズ侵攻の情報は入っていた。しかし参謀本部には、それに対抗する手段はなかった。アクシズのような極めて大規模な物体を、どの様にして押し返すのか?それがMSでできる芸当ではない事は、誰にでも判ることであった。ここで重要になってくるのが、コロニーレーザーである。参謀本部の幕僚達は、これを当てにするしかないと思っていた。これを急いで奪取して、アクシズに向けて発射する事でアクシズの軌道を変えようというのだ。
 その頃、エウーゴはコロニーレーザー奪取作戦の布陣を急速に展開させていた。コロニーレーザーという強力すぎる大量殺戮ハードウェアをティターンズに持たせておくことは危険であり、またアクシズにも渡してはならないからである。なによりアクシズ落着阻止が、この作戦を急務とさせていた。エウーゴは全艦隊を渦巻き状に展開させてコロニーレーザーを包囲し、ティターンズとの最終決戦を迎える準備も既に完了していた。それほど大規模な艦隊戦を前にしてもなお、クレイモア隊の凍結指令が解除されることはなかった。全艦隊への出撃命令が出されているにもかかわらず、である。
 ログナーはその全艦隊への出撃命令を凍結解除を示すモノと判断して一度出撃しようとしたが、その出動は許可されなかった。参謀本部はクレイモア隊をメールシュトローム作戦に参加させるつもりは毛頭なく、説明を求めても、
 「勝敗の帰趨は既に我々にある。ティターンズ打倒の後はアクシズの連中と戦わねばならない。その為の戦力温存だ。」
 という回答があっただけであった。ログナーにその理屈はわからないでもなかったが、当面の問題はアクシズそのものにある。ティターンズの打倒は今でなくとも可能だが、アクシズ落着の阻止は今でないとできないことだからだ。しかし、この参謀本部の判断には根拠があった。ティターンズの戦力は既にコロニーレーザーという攻撃に重点を置いたハードウェアの上に寄りかかっている状態で、防衛力は弱い。数・質ともにエウーゴの勝算は高かった。コロニーレーザーの奪取はティターンズへのとどめとなり、しかもアクシズ軍に対しても強力な武器になる。コロニーレーザー奪取作戦であるメールシュトローム作戦の成算も高く、参謀本部は主力艦隊の動向を見ているだけで良いと判断していたのである。そのような事は、ログナーにも理解できていた。しかし、それ自体机上の空論の勘を否めず、万が一コロニーレーザーを奪取できなかったら?なかんずく奪取したとしても、そのアクシズへの発射が間に合わなかったら?元々神経質なログナーは、このような懸念を取り払うことはできなかった。そして、腹を決めた。
「アルドラ、ティルヴィングの発進準備はできているな?」
キャプテンシート横に立っているアルドラの方向を振り向いて、ログナーが尋ねた。
「無論です。発進ですね?」
アルドラはログナーに『本当に良いのだな?』という念押しを込めて、言った。ログナーの表情から、それが本気であることはすぐに判った。
「よし、全クルーに通達!15分後にティルヴィングはグラナダを出航する。目標はアクシズ!」
「艦長、待って下さい!」
 ミカが唐突に、ログナーを制止した。何事かとログナーは苛立たしげに聞いた。せっかく盛り上がったところに、いきなり水を差されたのだから、ログナーの苛立ちは当然のものであると言えよう。それに怯むことなく、ミカは続けた。
「匿名の電文が入っています。電算室までちょっと・・・・」
「わかった、それとアルドラ、ファクター大尉とコーネリア中尉、エネス大尉とハーバイン中尉を呼べ。」


 ティルヴィングの電算室、ここには入ってくる情報の分析を行う為の設備が配置されている。今回のような小隊長クラスの人物と重要な会話を行う場合などにも、ここが使われることが多い。ログナーはミカを伴って、呼び出させた4人が来るのを待っていた。5分もしないうちに、4人は電算室の中に揃っていた。一度全員を見渡した後、ログナーはミカを促した。
「で、どの様な電文が?」
「『フォン・ブラウンへ急げ。』・・・」
「どういうことだ?」
 ログナーは、この電文への疑惑を隠し得なかった。グラナダにあるいち軍艦に、参謀本部にではなく直接ここへ電文を送ってくるなど、前代未聞である。凍結指令を無視せよという、クレイモア隊へのメッセージの他には考えられなかった。
「『コロニーレーザー奪取は成功する。今からティルヴィングが向かっても無意味だ。フォン・ブラウンへ向かえ。この騒動に乗じて、アクシズ軍の巡洋艦がフォン・ブラウンに向かっている・・・J.M』以上です。」
 電文の読み上げが終わり、ログナーは首を傾げた。この発信源に全く心当たりがない。そのJ.Mという人物が情報提供者らしい事だけがわかっているが、参謀本部の主立った人物に、このイニシャルの持ち主はいない。だとしたら情報部の人間か、もしくは外部からの情報と言うことになる。この情報が果たしてどの程度の信憑性があるか、何が目的でクレイモア隊を誘導しようと言うのか、皆目見当がつかなかった。
 同時に、ショールはエネスと顔を見合わせた。このイニシャルは間違いなくユリアーノ・マルゼティーニ(Juliano Malsetini)だと、2人はすぐに判った。昨年サイド3でユリアーノと出会って以来、その存在は2人の記憶の中にだけあったが、ショールはここで全てを話すべきなのではないかと思い、エネスに目配せした。なんの根拠も話さずにこの情報の信憑性を説いても、ログナーは信用はしないだろうと思ったからだ。しかしエネスは首を横に振った。
「しかし、この情報は信用できるのか?我々をグラナダから遠ざけるための策略だという可能性は、流石に無視できん。」
「・・・フォン・ブラウンに向かってもよろしいのではないでしょうか?」
 切り出したのはエネスだった。ショールはウソや隠し事をできないが、それ故にログナーからの信頼も厚い。それに対してエネスにはショールほどの信頼はない。ここでショールにウソを付かせて他からの信頼を揺らがせることは、エネスには得策とは思えなかった。
「エネス大尉、なぜそう言える?」
「その電文の発信者は、状況を的確に把握しているからです。今から我々がアクシズに向かって、何ができます?アクシズが月に向かっている、それは大変な事態でしょう。ですが、我々のできることの範疇を越えています。それに、メールシュトローム作戦は成功します。アクシズ軍の動きも気になりますしね。」
「・・・なるほどな・・・しかし、これがアクシズからグラナダの残存兵力をおびき寄せる為のニセ情報ではないと、断言はできなんだろう?」
 ログナーは食い下がりつつも、エネスの言っていることを認めた方が良いのではないかと思い始めていた。ログナーはエネスの言葉から、確証が欲しかったのである。
「では、ここでアクシズを待ちかまえますか?コロニーレーザーのアクシズ攻撃の巻き添えを喰うのが、関の山でしょう?」
 ログナーは自分が論じていることが可能性でしかないことは、承知していた。それに、エネスのこういう戦局を見渡す能力に期待していたのは、ログナーであった。だからエネスを信用していなかった故の慎重論ではない。
「・・・・わかった、全MS隊に出撃準備させろ、ティルヴィングは現時刻をもって発進する。」
 ログナーはここで再び、腹を決めた。発進することは既に決めたことであって、その先を変更するに過ぎない。どのみち命令違反をするのである。それなら有効な方を選んだ方がよいと、ログナーは思った。4人にMSデッキでの準備を命じると、入口にある通信端末からブリッジを呼んび、そのコールにはアルドラがでた。
「ティルヴィング発進だ。目標はフォン・ブラウン市!」
「フォン・ブラウン・・・アクシズではないのですか?」
「フォン・ブラウンだ。アクシズの連中が動き出している。」
「ハッ了解!」
「では、みんな頼むぞ。」
 振り返って、ログナーは4人に呼びかけた。揃って敬礼した後、ショール達4人は退出し、直接MSデッキへと向かっていった。ログナーは再び通信端末をオンにして、今度は艦内放送に切り替えた。
「クレイモア隊全員に告ぐ、これよりティルヴィングは発進する。総員第二種戦闘態勢で待機せよ!」
 敵がすぐそこにいるわけでもないのに、ログナーが第二種戦闘態勢を発令したのには、理由があった。グラナダの宇宙港を素通りできるとは思っていなかったからである。いくらグラナダの戦力が空だといっても、最低限の防衛戦力が存在し、ティルヴィングを阻んでくるかも知れなかった。最悪の場合はこれを実力で排除し、アクシズ軍のフォン・ブラウン侵攻を阻止せねばならなかった。もし凍結指令がでていなかったら、独断で出撃しても許されるケースである。アナハイムエレクトロニクスがアクシズ軍の巡洋艦を呼び込んだなどとは、誰にも予想できなかった。

 MSデッキに到着したショール達を迎えたのは、メカマン達の騒々しく動き回る光景であった。この光景はショール達にとっては3ヶ月ぶりの光景であり、これから隊ぐるみで命令違反をしようとしている事や任務の内容の事など、忘れさせてくれるものであった。その中でエリナが顔に似合わない大声を出してメカマン達に指示をしているのを、ショールはめざとく見つけた。ショールは昔から、雑踏の中などの沢山の人がいる中からエリナを見つけることが巧かった。それが自分自身でもなぜかは解らない。でも、昔からなんとなくエリナを見つけることができたから、ショールはその事を疑問に思ったことはない。それが当たり前になっているからだ。
「オレ達も忙しくなるんだ。ボーッと眺めてる場合じゃねぇぞ。発進準備だ。ナリア、そっちは頼むぜ?」
 ファクターは一度大きく両手をパンという音を立ててあわせるてショール達の注目を集めると、そう切り出した。ファクターの後ろには、レイがいた。既に艦内放送があったので、レイやマチス、アルツールにも、これから出撃すると言うことは伝わっていた。みんな心強い、優秀なパイロット達である。ショールは今のままずっと共に戦っていければいい。そして何よりも、隣りには最も信頼する親友がいる。それだけでオレは幸せだなと、本気で思った。ショールが実感しているように、今のクレイモア隊はかつてないほどに充実した戦力を持った部隊であった。


第27章 完     TOP