・TSの世界

アドヴァンスド・スレイヴ(Advanced slave)と冒険者達

アドヴァンスド・スレイヴ(AS)の登場と、
 その軍事転用の契機となったカリフォルニア独立戦争


ASとは、地下都市建設にともなって開発された頭頂高7メートルほどの土木作業用ロボットです。このASの登場があってこそ、各地の地下都市は完成を見ることができました。マニピュレータは人間の手の動きをほぼ完全に再現できるレベルを有しています。素材であるアルミニウムとチタンとハイパーセラミックをそれぞれの部位の重心や負荷の度合いによって複合率を代えることで、軽量化と同時に高水圧やちょっとした落盤程度では壊れないほどの頑強さを保持させることが可能になりました。

現在でもその用途は土木や建設など多岐に渡りますが、2076年のカリフォルニア独立戦争を機に、用途は軍事へも広がり始めました。

UGカリフォルニアはそれまで、UGニューヨークの傘下にありました。もともとのアメリカ合衆国の中枢が、UGニューヨーク完成と同時に移転していたからです。しかし、アメリカの独善と平和への定義こそがあの大災害を招いたのだという反感を、カリフォルニアの人々は持っていました。そこでカリフォルニアは自治都市国家宣言をし、同時にUGニューヨークに宣戦を布告しました。

最初にASを実戦に投入したのは、UGニューヨーク軍でした。ASの実戦投入によって、カリフォルニア軍は壊滅的なダメージを受けました。しかし、2072年に姉妹都市宣言を結んでいたUG東京と月の支援を受けて、カリフォルニアはもともと作業用だったASに代わる軍用ASであるES(Enhanced Slave/エンハンスド・スレイヴ)を開発し、それを戦線に投入することでUGニューヨーク軍の包囲網を切り崩すことに成功しました。

ESは最初から軍用として開発されたASで、素材も月でしか精製できない新素材エンハンスドカーボンファイバー(ECF)を使うことで大幅な耐衝撃・耐爆発の強化、大幅な軽量化を実現させることができました。軽量化に伴って水素動力炉も強力なものを積載することができ、レーザー兵器をも使いこなすことができました。

ESは完成してすぐに実戦投入され、多大な戦果を挙げました。このESと専用の小型レーザー兵器の登場によってカリフォルニア軍は勝利し、独立を果たすことができたと言えます。

初期に製造されたESが3機だけだったのは、ECFの精製が極めて困難で高価であったからです。しかし、戦局が膠着しつつあったとき、その2つの素材の純度を大幅に下げることで量産を可能にしたES-ユミルが開発されました。20機程度のES-ユミルで構成された部隊は、強力でした。後の専門家からは、このES-ユミルの投入こそが戦局を大きく変えたといわれています。

3機の100%純粋なESはES-オリジナルと呼ばれ、常に最先端をいく機体の象徴として現在でもカスタマイズを受けながらもカリフォルニア軍で使用されています。

戦後から今日に至ってもそのESの軍事的な威力に世界中が注目していますが、実のところ開発計画ばかりで、ほとんどは製造されていません。その理由は素材です。先述の通り、ECFの入手は極めて困難で高価です。更に、月面都市は未だにUGカリフォルニアと親交があり、敵対している都市国家が素材を入手することができません。地上でECFは精製できないのです。

そこで各国は、ESの開発そのものは縮小し、現在使っているASをよりESに近づけようと研究を重ね、2090年代になってから水素動力炉の小型化に成功させました。それによって一部のASにもレーザー兵器の使用が可能になりました。

ASは基本的に作業用機械なので、民間での所有が認められています。後述の「冒険者」もまた、AS製造企業のお得意さまになっています。ASに乗る冒険者を、人は”スレイヴマスター”と呼びます。


冒険者(TSU)とそれを取り巻く環境

2080年代、ちょうどカリフォルニア独立戦争を口火に各地で独立戦争や民族紛争が頻発した時代には、新規に召集された軍人や雇われた傭兵が多数いました。しかし2080年代も終わりに近付いてきた頃には、一部を除く各地の紛争は収束しました。戦争の時代が早く終わったため、多くの軍人や傭兵は職にあぶれ始めます。

各都市国家の行政には退職金や新たな就職先を斡旋するだけの余裕はなく、彼らは戦争が終わった瞬間に放り出されたのです。

職にあぶれた人々は、生きるため、喰うために何でもやりました。水没した旧世紀の船をサルベージして品物を掘り起こしたり、個人や企業が抱えたトラブルを解決することで生活していくようになります。次第に彼らは「冒険者(Trouble Shooting Unit)」と呼ばれるようになりました。冒険者達は持ち前の技能を活かして、成功を収めていく人も少なくありませんでした。

しかし、社会一般では、”TSUはあくまでアウトローの何でも屋”という偏見が色濃く残っています。そのため、社会的に認められた職業ではありません。保険にはいることもできなければ、行政から年金やその他の補償を受けることもできません。

更に、依頼者を脅迫したり、略奪者に成り下がったTSUが多発したことが、更にイメージを損なわせてしまいました。これではまともに仕事をしているTSUの信用にもかかわってきます。信用はTSUにとって、何よりも大事なのです。

冒険者に依頼する際の報酬の目安は、UG東京のTSUの場合は1人辺り20〜80万円が一般とされています。
しかし、ケースによっては相場より少なかったり、多かったりすることもあります。
無論、危険の伴う依頼であればあるほどに高くなるのが通常です。

また、企業などの依頼では、現金や電子マネーではなく試作ASや武器などの物品であるケースもあります。




ASの内燃機関

水素エンジンが実用化される以前に開発されたノッカーを除くほとんどの機種のASは、小型化された水素エンジンを搭載しています。しかし、水素エンジンはずっと稼働しているわけではありません。稼働には、基本的に重金属バッテリーを使用します。水素エンジンが使用されるのは機体の主機関起動時と、アイドリング状態でのバッテリー充電時のみとなります。
(水素エンジンの点火にバッテリーから少しだけ電力を使用しますので、バッテリー残量がないと起動できません。)

このバッテリーはASのみならず、車両などと同一の世界共通規格が適用されていますので、各都市国家でバッテリー交換を行うことが可能です。

ASの平均的な連続稼働時間は約2〜3時間、充電に要する時間はおよそ8時間ですが、バッテリーを使用して水素エンジンに点火しますので、バッテリー残量が皆無である場合は充電することができません。バッテリー交換か、他の車両やASによる外部からの点火が必要になります。

充電できるのは、機体を動かさずに水素エンジンだけをアイドリングで稼働させているときだけです。
また、水素エンジンの起動には、点火する電力の他に燃料となる水が必要となります。
水はAS内部には格納されていません。水資源の豊富な場所でないと充電できません。
そして、この時代は水資源が人工物によってまかなわれているため、都市での充電には費用がかかります。





冒険者ネットワーク(Trouble Shooting Unit Network)

まともに仕事をしている冒険者はホテルや酒場、ASや武器を製造している企業にとって、極めて重要な顧客です。しかし、冒険者は社会的に収入の安定した職業とは認められておらず、保険や金の融資などを受けることが出来ません。また、悪質な犯罪を犯す冒険者を出さないために、冒険者の実態をある程度把握しておくべきであるという考えもありました。

そこで、一部の地下都市国家の民間のホテルや企業が共同で出資して、支援団体兼同業者組合ともいえる組織を作りました。それがTSUNです。

これに加盟することによって、生活に必要な物資や武器弾薬、怪我(病気)の治療、ASの修理、部品の取り寄せなどのサービスを定額で受けられます。ホームタウンのある冒険者の多くは、これに加盟しています。

ただし、UGジュネーブのネットワークはUGジュネーブ国内というように、原則的には同じ都市国家の国内でのみしかサービスは適用されません。例外なのが姉妹都市宣言をしているUG東京とUGカリフォルニアのような、親交のある都市国家間では有効な場合もあります。

ただ現状では、ホームタウンを持たない流れ者の冒険者に対しての支援体制ができていない状態で、冒険者ネットワークの乱立を招いています。

しかし、TSUN同士の抗争や企業の不正などもあって、当初のネットワークの理念は薄れ始めています。

また、TSUNでは加盟者へのサービスの一環として、世界情勢の大まかな動きや主な出来事をネットワークを使って、TSUNフォーラムとして配信しています。