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地下都市(Underground City)


地下都市開発計画

オゾンホールの拡大とそれに伴う南極大陸の氷解は、21世紀に入ってから深刻な問題になりました。そこで、地上に降り注ぐ紫外線の雨と水位の上昇の問題を一挙に解決する打開策として、2024年の国連安全保障理事会で地下都市開発計画が立案されました。この計画は翌年の緊急安全保障理事会で承認され、ソルトレイク、ニューヨーク、(アメリカ)、東京(日本)、ジュネーブ(スイス)、北京(中国)、パリ(フランス)、ロンドン(イギリス)、ベルリン(ドイツ)、キエフ(ロシア)、ダカール(セネガル)の10箇所でジオフロント建設及び地下都市建設の整備が始まりました。

2030年に開始された地下都市建設は、作業用機械から発展したロボットAS(アドヴァンスド・スレイヴ:Advanced Slave)の登場によって急ピッチで進み、2040年に世界初の地下都市「UGソルトレイク」が完成、他の9都市でも続々と地下都市が完成し、最初は地下都市の安全を保持するために技術専門職などの人々の移民が始まりました。地下都市が安全であることが分かると、他の所でも地下都市建設が開始されます。

既に完成した地下都市で安全基準をクリアした都市では、居住ブロックへの移住申請の受付が開始されます。抽選で選ばれた一般市民達が移り住み始めると、地下都市は一気に賑やかになりました。そんな人々の平和な生活は、永遠に続くと思われました。

2045年にビッグバンと呼ばれる大災害が起こり、地下都市に住めなかった人々のほとんどは生き残れませんでした。水位の上昇だけでなく、地球の一部の海洋が放射能で汚染され、その海水から生まれた雲が放射能の雨を世界中に撒き散らしました。これによって地上のほとんどの陸地での生活は困難なものになったのです。

この大災害の後、この地下都市計画によって建設された地下都市は、人々の主な生活の場になりました。

地下都市国家時代に入った頃になって、大規模な地下都市では戦争などによって生まれた難民が大量に流入し、数量的に莫大な膨張を遂げました。それによって居住ブロック、市街ブロックの拡張が急務となりました。

2070年、地上にドーム型都市ブロックを建設するという案がUGニューヨークで実行されました。このドーム型地上ブロックの登場は、地下都市の歴史を大きく変えることになりました。ドーム型ブロックは都市機能や居住区の拡張だけではなく、水位が上昇した海洋から船舶で地下都市に出入りできる機能、つまりは港湾ブロックとしての機能有し始めたのです。

それまでは水没を免れた山岳地帯や盆地にしか地下都市の出入口がなかったため、船舶という移動手段で地下都市に入るには少し無理がありました。しかしこの地上港湾ブロック構想によって各地下都市同士が物的に繋がり、人の出入りも激しくなりました。この時点から、一部の地下都市同士で交易が始まったといわれています。

地下都市建設計画は最初の計画から大きく拡張・修正され、今日に至っています。

2101年現在では、世界でおよそ250箇所に増え、世界総計で約5億人が地下都市で生活しています。
単純に平均すれば、ひとつの地下都市に200万人が住んでいることになりますが、実際の所は全てに均一して人口が分散しているわけではありません。世界最大の地下都市であるUGニューヨークなどは1000万人規模ですし、人口が100万人程度の小規模な地下都市も存在します。それに、香港や東京などの大都市に流入した難民の正確な数も把握されていません。

人類全体の人口は8億人程度で、宇宙には浮かぶ1万人規模の中継都市ステーションが数カ所、資源採掘および科学技術開発を目的とした1億人規模の月面都市が1箇所あります。

また地上の放射能汚染が少ない場所では普通に都市生活が営まれているところもありますし、船上生活者もいます。

冒険者の総人口はおよそ2万人だといわれていますが、冒険者の中には定住場所を持たない人も多いため、実態を把握することができない状態です。


地下都市の構造

地下都市の構造は通常、国連の国際地下都市管理機関「IUMO(ユーモ:International Underground city Management Organization)」が定めた規格に準じた造りになっています。

地下都市は基本的に、ジオフロント(地下空洞)の中に都市を作り上げるという形になってはいます。一番上にあるのは港湾ブロックから入ってくるときに際する出入口となるブロックと食糧生産プラント、その下が市街ブロックと居住区、最下層に行政ブロックというように、ジオフロントの限りあるスペースを有効に使うために縦に層分けしています。

また、最上層の食糧生産プラントの直上には耐放射線強化ガラスを幾重にも重ね合わせた防壁が張り巡らされており、その直下にある市街ブロックに繋がっている吹き抜けを通じて両層に日光を取り入れています。これは、食糧生産プラントや市街の照明に使う電力を少しでも減らすという目的があります。地下都市の機能の全ては水素動力施設からの電力供給によってまかなわれています。発電の媒体となる水は無尽蔵にありますが、時間当たりの発電量には限りがある上に、地下都市の運営には莫大な電力が必要とされます。よって、少しでも電力の消費を抑えるに越したことはないのです。


人々の生活

地下都市で生きている人々の生活そのものは、21世紀初頭とそれほど大きく変わってはいません。
朝起きて、仕事をして、夕方には家に帰る・・・という日常でよく見かけることの出来た光景は、地下都市の中でもまたよく見られることです。

大災害直後に世界中を襲った食糧問題は、2101年では既に過去のこととなっています。地下都市の食糧生産プラントの存在によって、人が生きていくだけに必要な分は確保できています。また、酒やその他の嗜好品なども生産されており、市街ブロックの飲食店街はにぎわっています。しかし、全ての都市国家がそうであるとは限りません。これはあくまでも豊かで平和な町の話です。戦争や貧困に喘ぐ都市国家もまた、決して少なくはありません。

水産関係は、未だ十分に機能しているとは言えません。魚介類の養殖でまかなっているのが現状ですが、海洋の中でも赤道付近から北太平洋、北大西洋、南シナ海、インド洋にかけては放射能汚染の度合いが低く、遠洋漁業などは小規模ながら残っています。それゆえに魚介類の値段は野菜類よりも高価です。

畜産関係は、水産以上に深刻な状態です。肉類、特に牛肉は世界でも大都市に類するところでしか見かけられません。人工的に合成された人造タンパクで生活している貧しい国もあります。

確かに全人類的な食糧問題は解決こそしましたが、生活していく上で必要なものを買う際の物価は旧世紀に比べて高くなっています。支払わなければならない税金は電気、水道、空気の料金も含まれているため、非常に高くなっています。特に電気の料金は旧世紀の約2倍もかかっています。水素動力炉によって水を分解して酸素と燃料である水素を作り出していますが、その水は河川や海からとっており、その水に含まれる放射能や有害物質を取り除くための設備、もしくは水素動力炉から廃棄された水を再利用するための設備投資が高くついてしまうためです。

また、地下都市の部品が老朽化しては取り替え、取り替えては老朽化するということを繰り返しているため、その工事への支出が消えることがありません。

また、金属類などの物資も現状ではやや不足気味です。原因は、オーストラリアや中東諸国などの主な鉄鉱石、ボーキサイト、石油の産出地が水没、もしくは慢性的な戦争状態にあるためです。現状では月やその他の資源衛星からの輸入という形で、難を逃れているという状態です。

地下都市内の移動は、基本的に徒歩かハイドカー(水素動力車)がメインで、地下都市と地下都市の移動には船か、もしくは地下を通っているリニアトレインによる移動が出来る所もあります。

航空機の利用も頻繁ですが、宇宙から降りてきたシャトルが着陸するための滑走路が数カ所の山岳地帯にあるだけで、航空機用の滑走路はほとんどありません。航空機は垂直離着陸機がほとんどです。


エネルギー/環境問題

大災害以前ではメインのエネルギー源となっていた原子力エネルギーは、2045年の大災害を契機に次第に忌避されるべきものであるという認識が生まれていました。初期の地下都市建設に使われていたエネルギーも原子力でしたが、大災害以後には核がタブ−とされ、新たなエネルギーとして水素が注目を集め始めました。

水素を燃やしてエネルギーを得るという考え方は旧世紀からありましたが、安全面がクリアされていませんでした。しかし大災害の後になって、その研究は急ピッチに進められました。

発電というひとつの目的だけを追求するのであれば、衛星軌道に浮かべたソーラーパネルによって発電された電力をマイクロウェーブで送電するという方式もあったのですが、この時にはテロの対象は宇宙にも広がっており、そのパネルも大災害の時に破壊されてしまいました。

しかし、水素というエネルギーは電力だけではなく、水素を燃やすことで水を精製できるという面も魅力的でした。発電される際の廃棄物は真水で、その水を飲料水や生活用水として使用できるという利点は、海洋や河川、土壌が汚染された今の環境には最適だったのです。

その証拠に、水素動力が実用化されてからは世界各地での慢性的な水不足は一挙に解消されました。